企業のビジョン策定ワークショップ|準備・問い・合意形成・実行へのつなぎ方

企業のビジョン策定ワークショップ。準備から対話、合意形成、次の行動へ。

企業のビジョン策定では、目指す未来を言葉にすることと、現場の意思決定に使えることの両方が必要です。ワークショップは、経営や社員が持つ経験・課題・願いを共有し、未来像の案と判断材料を整理するために活用できます。

この記事では、事前準備、180分の進行例、問いの作り方、記入シート、意見が分かれた場合の対応、策定後の実行までを解説します。社内で一文を決める前に、誰のどんな変化を目指すかをそろえるところから始めましょう。

一般社団法人Re-Generation 代表理事 右近宣人

この記事の筆者

右近 宣人 Ukon Norihito

一般社団法人Re-Generation 代表理事|次世代との対話・共創

企業と次世代の接点をつくり、生活者の価値観を企画につなげる対話・共創プログラムを企画・運営。NECとの未来社会共創プログラムや、SMBCなどと連携したワークショップを通じて、企業の問いと若者の日常をつなぐ場づくりに取り組む。

1999年生まれ。神戸大学法学部卒業後、2022年に関西電力へ入社。新ビジネス創造コース1期生として新規事業開発に携わり、2023年6月に一般社団法人Re-Generationを設立。

学生との面談経験と、企業で次世代向けの事業を考えた経験を原点に、生活者との対話を大切にしている。本記事では、対話から組織の未来像を考え、意思決定と行動へつなぐワークショップの設計を解説する。

右近宣人の想いと、リジェネレーションの歩みを知る →

参加者が自分の経験や考えを共有するワークショップの様子
参加者が経験や考えを共有するワークショップの様子

未来の価値を考える対話に、若者の視点を

次の世代の視点から、
未来の価値を考える。

インタビューや対話型リサーチで、選び方の背景にある価値観を探ります。調査の問いづくりから参加者募集、得られた気づきの企画への活用まで、目的に合わせて支援します。

  • 選択の理由を深掘り
  • 企画の仮説を確認
  • 次の打ち手を検討

NEC・SMBCとの共創事例と、調査・企画支援の進め方をご紹介しています。

コンテンツ

ビジョン策定ワークショップで、何を決めるのか

未来像・判断基準・次の行動を残す。未来像:誰に、どんな変化を届けたいか。判断基準:何を優先し、何を選ばないか。次の行動:誰が、何を確かめいつ判断するか
未来像・判断基準・次の行動を残す(本記事の整理)

企業のビジョン策定ワークショップは、経営・現場などの異なる見方を持ち寄り、組織が目指す将来像と、その根拠を整理する場です。対話で案をつくることと、企業として正式に決定することを分けて設計します。

言葉このワークでそろえる意味問いの例
パーパス・ミッション存在意義や果たす役割。組織での定義を先に確認なぜこの仕事をし、誰に何を届けるのか
ビジョン一定の将来に実現したい状態その役割を果たした結果、顧客や社会、自社はどうなっているか
バリュー日々の判断や行動で大切にする基準迷ったときに何を優先するか
ブランドコンセプト特定の顧客へ約束する価値と、その根拠誰のどの場面で、何を理由に選ばれたいか

用語の定義や並べ方は企業によって異なります。既存の企業理念があるなら、すべてを作り直す前に、今回の対象を確認してください。たとえば「5年後の事業のありたい姿を具体化する」なら、創業理念の変更を議題へ広げる必要はありません。

本記事は企業・事業部のビジョン策定を扱います。住民などと地域の将来像を考える場合は地域ビジョンのワークショップ、顧客に約束する価値の言語化はブランドコンセプトの作り方へ整理しています。

事前準備:決定者・参加者・判断材料をそろえる

当日の前に、決める範囲を共有。決定者:案を検討する人と、正式に決める人。参加者:経営・現場・顧客接点の異なる経験。判断材料:既存理念、顧客の声、事業上の制約
当日の前に、決める範囲を共有(本記事の整理)

最初に決定責任者と打ち合わせ、今回決めること、変えない前提、当日決めずに持ち帰ることを一枚にします。「最後は誰かが整える」という進め方では、参加者がどこまで意見を出せるのか分かりません。

役割担当すること
決定責任者対象範囲・判断基準・決定時期を示し、案の採否と理由を説明する
参加者経営、商品・サービス、営業・顧客対応、人事などから具体的な経験と論点を持ち寄る
進行役問いと時間を管理し、発言の背景や相違点を整理する
記録・事務局発言、根拠、保留点、担当者、期限を残し、会議後の確認を進める

人数は部署数だけで決めず、異なる経験を聞ける組み合わせから考えます。進行しやすい企画例として、8〜12人を3〜4人の小グループへ分ける方法があります。人数の基準や成果保証ではなく、自社の関係性や検討範囲に応じて調整する例です。

  • 既存理念・中期計画・過去の重要な判断を、短い資料にまとめる。
  • 顧客から選ばれた経験と、期待に応えられなかった経験を両方集める。
  • 対象事業、検討する将来の時点、予算・技術などの前提を明記する。
  • 発言の記録・共有範囲と、発言しない選択や事後意見の提出方法を伝える。

経営者の案を最初に詳しく説明すると、それに合わせた意見が増える可能性があります。決定済みの前提だけを共有し、まず一人で経験や未来像を書いてから対話する構成を検討してください。顧客理解が乏しい場合は、ワークの前に必要なブランド調査を行うことも選択肢です。

180分の進行例:経験から未来像へ、未来像から判断へ

180分の進行例|休憩を含む。0〜65分:目的共有・経験の整理・未来像。65〜110分:休憩・共通点と違いの整理。110〜180分:案の検討・次の行動の確認
180分の進行例|休憩を含む(本記事の整理)

以下は、事前資料を読んだ8〜12人で、ビジョンのたたき台と未確認事項を残すための企画例です。実際に実施した事例の再現ではなく、180分で経営判断まで必ず完了するという意味でもありません。

経過時間行うことその時間に残すもの
0〜15分(15分)目的、決定範囲、参加の約束を共有今日決めること・持ち帰ること
15〜40分(25分)選ばれた経験・困った経験を個人記入し、小グループで共有事実と、その経験から大切にしたい価値
40〜65分(25分)将来の顧客や現場の一日を具体的に描く誰にどんな変化が起きるか
65〜75分(10分)休憩進行役は論点の重複・抜けを確認
75〜110分(35分)共通点・相違点を整理し、未来像の案をつくる候補案と、案ごとの理由
110〜150分(40分)実際の判断場面へ当てはめ、実現条件を確かめる優先すること・選ばないこと・保留点
150〜180分(30分)責任者、追加確認、決定日、共有方法を決める次の行動を記入した一枚のシート

合計は休憩を含め180分です。役員と現場の前提が大きく違う場合や、複数事業を扱う場合は、案づくりと意思決定の会を分けます。時間が足りなくなったら異論の確認を省くのではなく、追加で判断する論点と期限を残してください。

進行役が使える問い

段階問いの例
経験を振り返る最近、顧客や同僚に感謝されたのはどんな仕事ですか。何が役立ちましたか
課題を探る今のやり方のままでは、誰のどんな困りごとが残りますか
未来を描く将来、顧客や社員の一日は何が変わっていますか。それを場面で説明できますか
選択を確かめるこの未来像を優先するなら、今ある企画の何を変え、何をしない判断になりますか
条件を確認する実現するために、何が足りませんか。何を確認すれば次の判断ができますか

「世界一の会社にする」のような言葉が出たら、すぐに賛否を取らず、誰が何をできる状態かを尋ねます。未来像の大きさを競うより、実際の行動や判断へつながる説明を残すことを優先します。

参加者が自分の経験や考えを共有するワークショップの様子
参加者が経験や考えを共有するワークショップの様子

未来の価値を考える対話に、若者の視点を

次の世代の視点から、
未来の価値を考える。

インタビューや対話型リサーチで、選び方の背景にある価値観を探ります。調査の問いづくりから参加者募集、得られた気づきの企画への活用まで、目的に合わせて支援します。

  • 選択の理由を深掘り
  • 企画の仮説を確認
  • 次の打ち手を検討

NEC・SMBCとの共創事例と、調査・企画支援の進め方をご紹介しています。

ビジョン策定シート:言葉・根拠・実行を一枚にする

一文のビジョンに、根拠と行動を添える。経験・課題:顧客や現場で、何が起きているか。目指す状態:誰に、どんな変化を届けるか。判断・行動:何を選び、次に何を確かめるか
一文のビジョンに、根拠と行動を添える(本記事の整理)

架空の業務支援サービス企業を例に、シートの記入方法を示します。実在企業の方針・顧客の発言・当法人の提供サービスではありません。根拠がない欄には「未確認」と書き、会議の勢いで事実を補わないようにします。

記入項目架空の記入例
対象・将来の時点小規模事業者の現場業務。今から5年後の状態を考える
経験・課題入力作業に追われ、顧客対応の時間が減っているという仮説
目指す状態現場の人が、事務作業に追われず、本来届けたい仕事へ時間を使える
ビジョン案小さな現場が、人に向き合う時間を取り戻せる社会へ
大切にする判断機能の多さより、初めて使う人が運用を続けられることを優先する
最初に見直す仕事導入直後の入力手順と、問い合わせの多い箇所を確認する
未確認事項どの業務に時間がかかるか。導入で別の負担が生まれないか
担当・期限・判断日商品責任者が顧客対応担当と確認計画をつくり、2週間後の会議で対象を決める
確認方法作業の実態、迷った箇所、問い合わせ内容を確認。調査条件を記録する

シートができたら、実際の企画を一つ当てはめます。たとえば「多機能化」と「初回設定の簡素化」が競合したとき、この未来像だけで後者を自動的に選ぶのではなく、顧客の負担と事業の成立条件を確かめます。言葉が判断の根拠にならないなら、対象や目指す状態を具体化してください。

意見が分かれたときは、好みの投票より前提を確認する

異論を、次に判断できる論点へ。意味の違い:同じ言葉を、別の場面で捉えていないか。価値の違い:何を優先するかが分かれていないか。根拠の不足:追加で何を確かめれば決められるか
異論を、次に判断できる論点へ(本記事の整理)

「全員が賛成する一文」を急いでつくると、当たり障りのない表現になりやすくなります。投票は支持の分布を知る補助にはなりますが、少数の意見に含まれる顧客の不便や実行条件まで解決するものではありません。

対立の種類確認すること進め方
言葉の受け取り方が違う同じ言葉で誰のどの場面を想像しているか具体例へ戻り、意味をそろえてから言葉を整える
優先する価値が違う顧客、事業、社員への影響をどう見ているか案ごとの利点・失うものを記録し、責任者が判断する
実現性が分からない確認できた事実と推測はどれか追加調査の担当・期限を決め、その論点を保留する

全員が同じ好みになる必要はありません。採用理由、残った懸念、見直す条件を理解できることを合意の目安にします。たとえば「まず一つの事業で試し、現場の負担が増える場合は運用方法を見直す」と条件を付ければ、異論を消さずに次へ進めます。

発言量の多い人だけで決めないよう、個人記入、順番に聞く時間、事後意見の提出を組み合わせます。進行役が作った要約は参加者へ戻し、言いたかったことと違っていないか確認してください。対話の進行は若者との対話・共創の記事でも解説しています。

実践事例:経験と企業の知識から、未来像を具体化する

実践から参考にする、二つの問い方。NECとの実践:個人の経験・価値観から2030年の社会へ。SMBCなどとの実践:現在の一日の流れから2040年の暮らしへ
実践から参考にする、二つの問い方(本記事の整理)

ここで紹介するのは、Re-Generationが企業と連携した未来社会の対話・共創の事例です。企業の正式な経営ビジョンやMVVを策定した実績とは区別し、企業のワークショップへ応用できる進行の工夫を説明します。

NEC:自分の経験や価値観を言葉にしてから、社会を考える

2024年9〜10月、NECと関西・九州・東北で実施したプログラムでは、社員のレクチャーと、2030年の自分・未来社会を考えるワークを組み合わせました。参加者は過去・現在を振り返って価値観を共有し、社会への違和感や課題を整理して、あってほしい社会像を発表しました。[実施レポート]

企業のビジョン策定へ応用するなら:いきなり会社の未来像を聞かず、現場で誇りを感じた仕事や、応えられなかった期待を共有する工程を置きます。個人の経験から組織として大切にする価値へ広げる方法です。これは本記事の応用提案です。

SMBC・HashPort・U-FINO:技術を、未来の一日へ置き換える

2024年1月のプログラムでは、Web3.0・NFTのレクチャー後、現在の一日の流れを書き出し、技術を場面ごとに組み合わせて2040年の日常を構想しました。チームの発表に加え、講師からのフィードバックも設けています。[実施レポート]

企業のビジョン策定へ応用するなら:自社の技術や強みを列挙した後に、「それがあると、顧客の一日のどこが変わるか」を描きます。抽象的な未来像を、顧客接点や業務の検討に戻すための問いになります。こちらも本記事の考察であり、事例の事業成果を測定したものではありません。

NECと実施したプログラムで、自分の経験や価値観を言語化する参加者
2024年に開催したプログラムの様子。出典:Re-Generation実施レポート。
SMBCなどと連携したワークショップで、未来の日常を考える参加者
2024年1月のワークショップ。写真掲載元:Re-Generation実施レポート(画像配信元:U-FINO)。

策定後:正式決定・現場での試行・見直しまで予定に入れる

ワークの結果を、実務の判断へ戻す。整理して返す:採用理由・異論・保留点を共有。現場で使う:一つの案件に当てはめて試す。見直す:判断の違いと、次の確認を残す
ワークの結果を、実務の判断へ戻す(本記事の整理)

終了時に、最終案を誰が整え、誰が決め、いつ全体へ共有するかを確認します。発表資料の完成だけを完了条件にせず、現場の判断へつなぐ予定を入れます。以下は当日からの進め方の例です。

時期の例行うこと確認するもの
終了後1週間以内事務局が案、根拠、相違点、保留点を整理し、参加者に確認発言の趣旨や異論が抜けていないか
2〜4週間以内必要な追加確認を行い、責任者が正式決定または再検討採用理由、変更点、見直し条件
決定後1〜3か月各部署が一つの実案件へ当てはめ、判断例を共有言葉の理解、判断の違い、実行上の障害

理解を確かめるなら、ビジョンの暗唱だけでなく、「この企画を採る理由を説明できるか」「迷ったときに何を優先するか」を聞きます。業績や離職などの変化は他の要因も受けるため、ワークショップ実施だけの成果として扱わず、確認できた行動や判断と分けて報告してください。

正式決定したビジョンを各部門の仕事へ根付かせる段階では、インナーブランディングの進め方も参考になります。社員の理解だけでなく、実践する場面と、それを支える時間・情報・権限まで確認する方法を紹介しています。

若者や顧客との対話をビジョン検討の材料にしたい場合、Re-Generationでは問いの整理、参加者との接点づくり、共創の企画・運営などを相談できます。経営方針の最終決定、社内制度の設計、ロゴ・CI制作まで必要な場合は、担当部署や他の支援先との役割分担を先に確認します。

最初の一歩は、対象事業、検討する将来の時点、決定責任者、足りない判断材料の四つを書くことです。マーケティング・リサーチ支援では対話や調査の進め方、支援会社の選び方では依頼範囲の整理方法を確認できます。

周年をきっかけに、社員や次の世代と未来を考える場合は、周年ブランディング共創プログラムの実施内容と相談できる範囲もご覧ください。

参加者が自分の経験や考えを共有するワークショップの様子
参加者が経験や考えを共有するワークショップの様子

未来の価値を考える対話に、若者の視点を

次の世代の視点から、
未来の価値を考える。

インタビューや対話型リサーチで、選び方の背景にある価値観を探ります。調査の問いづくりから参加者募集、得られた気づきの企画への活用まで、目的に合わせて支援します。

  • 選択の理由を深掘り
  • 企画の仮説を確認
  • 次の打ち手を検討

NEC・SMBCとの共創事例と、調査・企画支援の進め方をご紹介しています。

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