企業のビジョン策定では、目指す未来を言葉にすることと、現場の意思決定に使えることの両方が必要です。ワークショップは、経営や社員が持つ経験・課題・願いを共有し、未来像の案と判断材料を整理するために活用できます。
この記事では、事前準備、180分の進行例、問いの作り方、記入シート、意見が分かれた場合の対応、策定後の実行までを解説します。社内で一文を決める前に、誰のどんな変化を目指すかをそろえるところから始めましょう。

未来の価値を考える対話に、若者の視点を
次の世代の視点から、
未来の価値を考える。
インタビューや対話型リサーチで、選び方の背景にある価値観を探ります。調査の問いづくりから参加者募集、得られた気づきの企画への活用まで、目的に合わせて支援します。
- 選択の理由を深掘り
- 企画の仮説を確認
- 次の打ち手を検討
NEC・SMBCとの共創事例と、調査・企画支援の進め方をご紹介しています。
ビジョン策定ワークショップで、何を決めるのか

企業のビジョン策定ワークショップは、経営・現場などの異なる見方を持ち寄り、組織が目指す将来像と、その根拠を整理する場です。対話で案をつくることと、企業として正式に決定することを分けて設計します。
| 言葉 | このワークでそろえる意味 | 問いの例 |
|---|---|---|
| パーパス・ミッション | 存在意義や果たす役割。組織での定義を先に確認 | なぜこの仕事をし、誰に何を届けるのか |
| ビジョン | 一定の将来に実現したい状態 | その役割を果たした結果、顧客や社会、自社はどうなっているか |
| バリュー | 日々の判断や行動で大切にする基準 | 迷ったときに何を優先するか |
| ブランドコンセプト | 特定の顧客へ約束する価値と、その根拠 | 誰のどの場面で、何を理由に選ばれたいか |
用語の定義や並べ方は企業によって異なります。既存の企業理念があるなら、すべてを作り直す前に、今回の対象を確認してください。たとえば「5年後の事業のありたい姿を具体化する」なら、創業理念の変更を議題へ広げる必要はありません。
本記事は企業・事業部のビジョン策定を扱います。住民などと地域の将来像を考える場合は地域ビジョンのワークショップ、顧客に約束する価値の言語化はブランドコンセプトの作り方へ整理しています。
事前準備:決定者・参加者・判断材料をそろえる

最初に決定責任者と打ち合わせ、今回決めること、変えない前提、当日決めずに持ち帰ることを一枚にします。「最後は誰かが整える」という進め方では、参加者がどこまで意見を出せるのか分かりません。
| 役割 | 担当すること |
|---|---|
| 決定責任者 | 対象範囲・判断基準・決定時期を示し、案の採否と理由を説明する |
| 参加者 | 経営、商品・サービス、営業・顧客対応、人事などから具体的な経験と論点を持ち寄る |
| 進行役 | 問いと時間を管理し、発言の背景や相違点を整理する |
| 記録・事務局 | 発言、根拠、保留点、担当者、期限を残し、会議後の確認を進める |
人数は部署数だけで決めず、異なる経験を聞ける組み合わせから考えます。進行しやすい企画例として、8〜12人を3〜4人の小グループへ分ける方法があります。人数の基準や成果保証ではなく、自社の関係性や検討範囲に応じて調整する例です。
- 既存理念・中期計画・過去の重要な判断を、短い資料にまとめる。
- 顧客から選ばれた経験と、期待に応えられなかった経験を両方集める。
- 対象事業、検討する将来の時点、予算・技術などの前提を明記する。
- 発言の記録・共有範囲と、発言しない選択や事後意見の提出方法を伝える。
経営者の案を最初に詳しく説明すると、それに合わせた意見が増える可能性があります。決定済みの前提だけを共有し、まず一人で経験や未来像を書いてから対話する構成を検討してください。顧客理解が乏しい場合は、ワークの前に必要なブランド調査を行うことも選択肢です。
180分の進行例:経験から未来像へ、未来像から判断へ

以下は、事前資料を読んだ8〜12人で、ビジョンのたたき台と未確認事項を残すための企画例です。実際に実施した事例の再現ではなく、180分で経営判断まで必ず完了するという意味でもありません。
| 経過時間 | 行うこと | その時間に残すもの |
|---|---|---|
| 0〜15分(15分) | 目的、決定範囲、参加の約束を共有 | 今日決めること・持ち帰ること |
| 15〜40分(25分) | 選ばれた経験・困った経験を個人記入し、小グループで共有 | 事実と、その経験から大切にしたい価値 |
| 40〜65分(25分) | 将来の顧客や現場の一日を具体的に描く | 誰にどんな変化が起きるか |
| 65〜75分(10分) | 休憩 | 進行役は論点の重複・抜けを確認 |
| 75〜110分(35分) | 共通点・相違点を整理し、未来像の案をつくる | 候補案と、案ごとの理由 |
| 110〜150分(40分) | 実際の判断場面へ当てはめ、実現条件を確かめる | 優先すること・選ばないこと・保留点 |
| 150〜180分(30分) | 責任者、追加確認、決定日、共有方法を決める | 次の行動を記入した一枚のシート |
合計は休憩を含め180分です。役員と現場の前提が大きく違う場合や、複数事業を扱う場合は、案づくりと意思決定の会を分けます。時間が足りなくなったら異論の確認を省くのではなく、追加で判断する論点と期限を残してください。
進行役が使える問い
| 段階 | 問いの例 |
|---|---|
| 経験を振り返る | 最近、顧客や同僚に感謝されたのはどんな仕事ですか。何が役立ちましたか |
| 課題を探る | 今のやり方のままでは、誰のどんな困りごとが残りますか |
| 未来を描く | 将来、顧客や社員の一日は何が変わっていますか。それを場面で説明できますか |
| 選択を確かめる | この未来像を優先するなら、今ある企画の何を変え、何をしない判断になりますか |
| 条件を確認する | 実現するために、何が足りませんか。何を確認すれば次の判断ができますか |
「世界一の会社にする」のような言葉が出たら、すぐに賛否を取らず、誰が何をできる状態かを尋ねます。未来像の大きさを競うより、実際の行動や判断へつながる説明を残すことを優先します。

未来の価値を考える対話に、若者の視点を
次の世代の視点から、
未来の価値を考える。
インタビューや対話型リサーチで、選び方の背景にある価値観を探ります。調査の問いづくりから参加者募集、得られた気づきの企画への活用まで、目的に合わせて支援します。
- 選択の理由を深掘り
- 企画の仮説を確認
- 次の打ち手を検討
NEC・SMBCとの共創事例と、調査・企画支援の進め方をご紹介しています。
ビジョン策定シート:言葉・根拠・実行を一枚にする

架空の業務支援サービス企業を例に、シートの記入方法を示します。実在企業の方針・顧客の発言・当法人の提供サービスではありません。根拠がない欄には「未確認」と書き、会議の勢いで事実を補わないようにします。
| 記入項目 | 架空の記入例 |
|---|---|
| 対象・将来の時点 | 小規模事業者の現場業務。今から5年後の状態を考える |
| 経験・課題 | 入力作業に追われ、顧客対応の時間が減っているという仮説 |
| 目指す状態 | 現場の人が、事務作業に追われず、本来届けたい仕事へ時間を使える |
| ビジョン案 | 小さな現場が、人に向き合う時間を取り戻せる社会へ |
| 大切にする判断 | 機能の多さより、初めて使う人が運用を続けられることを優先する |
| 最初に見直す仕事 | 導入直後の入力手順と、問い合わせの多い箇所を確認する |
| 未確認事項 | どの業務に時間がかかるか。導入で別の負担が生まれないか |
| 担当・期限・判断日 | 商品責任者が顧客対応担当と確認計画をつくり、2週間後の会議で対象を決める |
| 確認方法 | 作業の実態、迷った箇所、問い合わせ内容を確認。調査条件を記録する |
シートができたら、実際の企画を一つ当てはめます。たとえば「多機能化」と「初回設定の簡素化」が競合したとき、この未来像だけで後者を自動的に選ぶのではなく、顧客の負担と事業の成立条件を確かめます。言葉が判断の根拠にならないなら、対象や目指す状態を具体化してください。
意見が分かれたときは、好みの投票より前提を確認する

「全員が賛成する一文」を急いでつくると、当たり障りのない表現になりやすくなります。投票は支持の分布を知る補助にはなりますが、少数の意見に含まれる顧客の不便や実行条件まで解決するものではありません。
| 対立の種類 | 確認すること | 進め方 |
|---|---|---|
| 言葉の受け取り方が違う | 同じ言葉で誰のどの場面を想像しているか | 具体例へ戻り、意味をそろえてから言葉を整える |
| 優先する価値が違う | 顧客、事業、社員への影響をどう見ているか | 案ごとの利点・失うものを記録し、責任者が判断する |
| 実現性が分からない | 確認できた事実と推測はどれか | 追加調査の担当・期限を決め、その論点を保留する |
全員が同じ好みになる必要はありません。採用理由、残った懸念、見直す条件を理解できることを合意の目安にします。たとえば「まず一つの事業で試し、現場の負担が増える場合は運用方法を見直す」と条件を付ければ、異論を消さずに次へ進めます。
発言量の多い人だけで決めないよう、個人記入、順番に聞く時間、事後意見の提出を組み合わせます。進行役が作った要約は参加者へ戻し、言いたかったことと違っていないか確認してください。対話の進行は若者との対話・共創の記事でも解説しています。
実践事例:経験と企業の知識から、未来像を具体化する

ここで紹介するのは、Re-Generationが企業と連携した未来社会の対話・共創の事例です。企業の正式な経営ビジョンやMVVを策定した実績とは区別し、企業のワークショップへ応用できる進行の工夫を説明します。
NEC:自分の経験や価値観を言葉にしてから、社会を考える
2024年9〜10月、NECと関西・九州・東北で実施したプログラムでは、社員のレクチャーと、2030年の自分・未来社会を考えるワークを組み合わせました。参加者は過去・現在を振り返って価値観を共有し、社会への違和感や課題を整理して、あってほしい社会像を発表しました。[実施レポート]
企業のビジョン策定へ応用するなら:いきなり会社の未来像を聞かず、現場で誇りを感じた仕事や、応えられなかった期待を共有する工程を置きます。個人の経験から組織として大切にする価値へ広げる方法です。これは本記事の応用提案です。
SMBC・HashPort・U-FINO:技術を、未来の一日へ置き換える
2024年1月のプログラムでは、Web3.0・NFTのレクチャー後、現在の一日の流れを書き出し、技術を場面ごとに組み合わせて2040年の日常を構想しました。チームの発表に加え、講師からのフィードバックも設けています。[実施レポート]
企業のビジョン策定へ応用するなら:自社の技術や強みを列挙した後に、「それがあると、顧客の一日のどこが変わるか」を描きます。抽象的な未来像を、顧客接点や業務の検討に戻すための問いになります。こちらも本記事の考察であり、事例の事業成果を測定したものではありません。


策定後:正式決定・現場での試行・見直しまで予定に入れる

終了時に、最終案を誰が整え、誰が決め、いつ全体へ共有するかを確認します。発表資料の完成だけを完了条件にせず、現場の判断へつなぐ予定を入れます。以下は当日からの進め方の例です。
| 時期の例 | 行うこと | 確認するもの |
|---|---|---|
| 終了後1週間以内 | 事務局が案、根拠、相違点、保留点を整理し、参加者に確認 | 発言の趣旨や異論が抜けていないか |
| 2〜4週間以内 | 必要な追加確認を行い、責任者が正式決定または再検討 | 採用理由、変更点、見直し条件 |
| 決定後1〜3か月 | 各部署が一つの実案件へ当てはめ、判断例を共有 | 言葉の理解、判断の違い、実行上の障害 |
理解を確かめるなら、ビジョンの暗唱だけでなく、「この企画を採る理由を説明できるか」「迷ったときに何を優先するか」を聞きます。業績や離職などの変化は他の要因も受けるため、ワークショップ実施だけの成果として扱わず、確認できた行動や判断と分けて報告してください。
正式決定したビジョンを各部門の仕事へ根付かせる段階では、インナーブランディングの進め方も参考になります。社員の理解だけでなく、実践する場面と、それを支える時間・情報・権限まで確認する方法を紹介しています。
若者や顧客との対話をビジョン検討の材料にしたい場合、Re-Generationでは問いの整理、参加者との接点づくり、共創の企画・運営などを相談できます。経営方針の最終決定、社内制度の設計、ロゴ・CI制作まで必要な場合は、担当部署や他の支援先との役割分担を先に確認します。
最初の一歩は、対象事業、検討する将来の時点、決定責任者、足りない判断材料の四つを書くことです。マーケティング・リサーチ支援では対話や調査の進め方、支援会社の選び方では依頼範囲の整理方法を確認できます。
周年をきっかけに、社員や次の世代と未来を考える場合は、周年ブランディング共創プログラムの実施内容と相談できる範囲もご覧ください。

未来の価値を考える対話に、若者の視点を
次の世代の視点から、
未来の価値を考える。
インタビューや対話型リサーチで、選び方の背景にある価値観を探ります。調査の問いづくりから参加者募集、得られた気づきの企画への活用まで、目的に合わせて支援します。
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