脱炭素まちづくりは、地域で温室効果ガスの排出を減らしながら、暮らしやすさや地域の課題にも向き合う取り組みです。若者や生活者と進めるときは、地域の排出に関するデータと、移動・住まい・公共空間を使う人の経験を合わせて、施策の選択肢と実施条件を考えます。
本稿では、自治体・地域事業者・エリア運営の担当者に向けて、暮らしの課題を捉える問い、関係者との対話、提案を小さく試す方法を解説します。神戸と佐賀の共創の過程を紹介し、公的な脱炭素まちづくり資料と照らして、地域で応用する際の判断を整理します。

自治体・企業の脱炭素/次世代支援のご担当者へ
暮らしの声から、
地域の選択肢を考える。
若者がまちを使う経験を持ち寄り、地域の関係者と未来を考える場を設計・運営します。
- 若者の利用経験を可視化
- 地域の関係者と共創
- 企画・対話・具体化の支援
地域の課題を若者と考える対話や、担い手の学習企画もご相談ください。
地域の排出源と、暮らしの困りごとを一緒に見る

まちづくりで扱う課題を、移動、住まい、店舗、公共施設などの場面に分けてみましょう。地域の排出量や交通のデータから重点を捉え、生活者への聞き取りで、なぜ現在の選択をしているのかを確かめます。双方を持ち寄ると、施策の必要性と利用される条件を検討できます。
| 場面 | 地域側で見る情報の例 | 生活者への問いの例 |
|---|---|---|
| 移動 | 交通手段、時間帯、目的地、便数 | 車を選ぶのはどんな時か。別の手段で困ることは何か |
| 住まい・施設 | エネルギー利用、設備、利用時間 | 快適さを保つために何が必要か。利用者が変えられることは何か |
| 公共空間・地域の拠点 | 徒歩で行ける場所、滞在環境、利用者 | どこなら歩いて立ち寄りたいか。避ける時間帯や理由は何か |
自治体が公表する排出量の資料を読む際は、対象年、区域、部門、推計方法を確認します。人流データは「いつ、どこに人がいるか」を捉える材料ですが、一人ひとりの目的や困りごとは別途確かめる必要があります。特定の利用者の声だけで地域全体を代表させないようにします。
制度や計画策定に関する技術的な資料は、環境省の区域施策編のマニュアル・参考資料を参照できます。共創の場では、参加者が考えるのに必要な情報を読みやすく選び、出典と条件を示しましょう。
若者や生活者が参加し、利用条件を話せる場をつくる

若者を年齢だけでまとめず、高校生、大学生、働く人、地域に通う人など、場所を使う立場を分けて考えます。住民であっても、仕事の時間帯や家族との移動、身体の状況によって利用できる選択肢は異なります。普段の会議に参加しない人にも、話を聞ける接点を探しましょう。
問いは「環境のために何をすべきか」から始めるより、具体的な利用場面を尋ねると状況を捉えやすくなります。「放課後、駅からどこへ行くか」「雨の日や夜に歩きにくい場所はあるか」「バスを使おうと思ったが使わなかったのはなぜか」と、行動の前後も聞いてみます。
- 一日の移動や、地域で過ごす場所を地図に記す。
- 選んだ理由、迷った選択肢、困った条件を分けて書く。
- 時間・費用・安全・快適さなど、変える必要がある条件を確かめる。
- 関係者に共有する際は、個人の生活場所などを必要以上に公表しない。
参加者に期待するのは、地域の課題について自分の経験を伝え、ほかの立場と考えることです。設備や交通制度の専門的な解決策を最初から求めず、分からないことを関係者に確認できる進行にします。背景を調べる方法は、脱炭素の意識調査とも組み合わせられます。
利用者と行政・事業者が同じ場で考える進行は、脱炭素ワークショップの進め方で、生活の振り返りから提案を整理するまでの流れを確認できます。
神戸・佐賀の共創から、暮らしの声を企画にする過程を学ぶ

佐賀駅南:道路でどのように過ごしたいかを具体化
2024年6月29日の第2回「Saga Z世代未来社会デザイン」では、若者が5グループに分かれ、佐賀駅南側の道路空間の使い方を考えました。佐賀県庁・佐賀YEG・サガつく!が共催し、リジェネレーションが協力。地域関係者のレクチャーと、メンターを交えたワークを組み合わせています。
この事例は公共空間の共創の実践で、脱炭素の効果測定事例ではありません。「誰が、いつ、どのように過ごすか」を言葉にし、地域の関係者と実際に試せる企画へつなぐ過程が、まちの利用条件を考える参考になります。詳細は佐賀駅南のほこみちの実施レポートに掲載しています。

地域での応用では、事例の名称や演出だけを移すのではなく、どの場所を誰と考え、どんな条件を確かめたかに着目します。歩いて過ごす空間の魅力と、車の利用や排出の変化は、それぞれ記録が必要です。

自治体・企業の脱炭素/次世代支援のご担当者へ
若者・地域・事業者の視点を、
実施できる企画へつなぐ。
場所と課題に合わせて、参加者との接点づくり、対話、アイデアの具体化を支援します。
- 若者の利用経験を可視化
- 地域の関係者と共創
- 企画・対話・具体化の支援
地域の課題を若者と考える対話や、担い手の学習企画もご相談ください。
データを使い、施策の選択肢と担当を整理する

対話で出た希望を、そのまま完成した施策案と扱わず、対象となる場面と必要な条件に整理します。「歩いて寄り道したい」であれば、歩行ルート、滞在できる場所、日陰、営業時間などに分け、誰が変更できるかを確かめます。実施できる主体と、別途の調整が必要な主体を書き出しましょう。
環境省は、令和2年度の事業で富山市と鎌倉市を対象に、移動データの可視化を踏まえた脱炭素化施策の検討を行い、報告書を公開しています。事業の概要と地域別資料は、データを施策の検討材料にする公的な参照例です。ここでは報告書の存在と検討対象を紹介しており、個別施策の削減効果を転載しているものではありません。
| 候補の例 | 実施に向けて確認すること | 記録すること |
|---|---|---|
| 駅から拠点まで歩きやすくする | 道路・土地の管理、安全、滞在設備の運営 | 歩行や滞在の状況、利用者の声 |
| 公共交通で訪れやすくする | 運行事業者、接続時間、案内、費用 | 移動手段と利用条件の変化 |
| 施設の使い方を見直す | 管理者、設備、利用時間、快適さ | 利用実態、エネルギー利用、調整事項 |
比較表では、生活者にとっての便益、脱炭素に関わる経路、費用と体制、実施までの課題を併記します。共創の場で扱う範囲を超える設備設計や排出量算定は、専門家・担当部署と連携する工程として整理します。
生活者が選びやすい条件を施策に落とし込む際は、脱炭素の行動変容を促す施策で、情報の改善と利用環境の整備を分けて検討できます。
小さく試し、利用者と運営者の双方から確かめる

候補がまとまったら、一つの場所、限られた期間、特定の利用場面で試せる内容にします。たとえば、拠点への歩行ルート案内、滞在場所の使い方、公共交通との接続を知らせる方法などです。何を確かめる試行なのかを先に決め、必要な管理者の了解や運営条件を整えます。
記録するのは来場者数だけではありません。どうやって訪れたか、どの時間に使ったか、使いにくかった理由、運営側に発生した作業も残します。利用者の満足と、継続できる運営の条件は両方確認しましょう。既存のイベントの参加者だけで判断する場合は、届かなかった利用者の声を別に聞く方法も考えます。
- 試行の目的、場所、期間、対象、担当を企画書に記す。
- 実施前後で比較する情報と、参加者への質問を決める。
- 安全・管理・費用・片付けなど、継続に必要な負担を記録する。
- 試行後の検討会で、続ける内容と変更する条件を整理する。
試行の結果を若者や地域の参加者に返し、次の検討に関われる機会を示します。提案を採用できない場合にも、権限や費用など判断の理由を伝えると、その後の企画を考える材料になります。
地域で学び、提案を育てる機会を継続する場合は、脱炭素人材育成プログラムの設計で、現地学習・対話・発表と地域側の担当をつなぐ方法を確認できます。
暮らし・参加・排出の変化を分けて評価する

脱炭素まちづくりでは、暮らしがどう変わったか、関係者がどう関わったか、排出にどんな変化があったかを分けて評価します。歩行者が増えたという記録だけで、自動車から徒歩への転換を断定することはできません。移動手段や目的の変化を確認してから、排出との関係を検討します。
| 評価する内容 | 根拠の例 | 判断に必要な条件 |
|---|---|---|
| 利用・暮らし | 利用観察、参加者への聞き取り | 時間帯、天候、対象者、比較する場所 |
| 参加・継続 | 関係者の役割、継続活動、運営記録 | 必要な費用、担当、管理の条件 |
| 温室効果ガス | 対象活動量、排出係数、算定記録 | 算定範囲、基準となる状況、同じ比較条件 |
地域の変化には複数の施策が影響することがあります。対象期間に他の事業があった場合も記録し、一つのイベントや対話だけの成果として説明しないようにします。暮らしの便益を保ちながら続けられるかを確かめ、次の施策に反映しましょう。
まずは、対象の場所と利用者、脱炭素に関わる課題、地域側で検討できる範囲をそろえるところから始めます。生活者が参加して課題を考え、関係者が実施条件を持ち寄ることが、地域の選択肢を具体化する土台になります。

自治体・企業の脱炭素/次世代支援のご担当者へ
地域の課題に合う共創を、
企画の段階からご一緒に。
自治体や地域事業者の皆さまと、目的・対象・場所・検討段階を伺いながら進め方を組み立てます。
- 若者の利用経験を可視化
- 地域の関係者と共創
- 企画・対話・具体化の支援
地域の課題を若者と考える対話や、担い手の学習企画もご相談ください。
実施期間や目的に合わせて、単発の脱炭素ワークショップもご覧ください。
主な参照資料:環境省の移動データを用いた検討、神戸の実施レポート、佐賀の実施レポート、地域共創の支援内容。確認日:2026年10月3日。



