Z世代のレトロ・アナログへの関心を考えるときは、昔を懐かしむ気持ちと、初めて触れるものへの新鮮さを分けることが大切です。紙の写真を残す、レコードを自分でセットするなど、手で扱う過程そのものが企画の価値になる場合があります。
ただし、若者なら誰でも古いものや不便なものを好むわけではありません。本稿では、公式に確認できる商品・サービスの例から、どんな体験を残し、どんな手間を減らすとよいかを整理します。流行のランキングや見た目の装飾ではなく、実物に触れて選ぶ場面を扱います。資料の確認日は2026年9月27日です。
Z世代のレトロへの関心は、懐かしさだけでは説明できない

昔使っていた道具を再び手に取ることと、生まれる前の道具に初めて触れることは、似た商品でも体験の意味が異なります。Z世代の中にも、幼い頃の記憶として懐かしむ人と、家族やSNSを通じて初めて知る人がいます。企画では「これ、懐かしいですよね」と同意を求めず、どこで知ったのかから聞いてみます。 話題になった出来事と継続して選ぶ行動を区別する視点は、Z世代の流行・トレンドを企画へ活かす方法でも扱っています。
SHIBUYA109 lab.が2025年1月に公表したレトロカルチャーの変遷レポートでは、過去の観察やインタビューを踏まえ、見た目の雰囲気に加え、道具を扱う過程も体験として楽しまれていると考察しています。これは複数の観察をまとめたレポートで、全国のZ世代における支持率や、一つの原因を証明する統計ではありません。
レトロとアナログは、別の軸で考える
本稿では「レトロ」を過去の時代を連想させる様式や文化、「アナログ体験」を実物の媒体や道具を手で扱う体験として整理します。レトロ風の写真をスマホでつくることもできれば、現代的な外観の道具でレコードを聴くこともできます。
| 検討する軸 | 確かめたいこと |
|---|---|
| 時代の雰囲気 | どんな色・形・文化に惹かれるか |
| 本人の記憶 | 使った経験があるか、初めて知ったか |
| 実物を扱う体験 | どの操作や感触を楽しみたいか |
この違いを押さえると、見た目を昔風にすればよいのか、実物に触れる時間まで必要なのかを判断しやすくなります。 色や見た目の印象と、実際の使いやすさを検討する場合は、Z世代向けデザイン・コピー・パッケージの考え方を参照してください。
アナログを選ぶ理由を、四つの体験から確かめる

アナログを選ぶ理由を調べるときは、感覚的な「エモい」で会話を終えず、どの場面が良かったのかに分けます。以下は、商品・イベントの企画で使うための確認軸です。Z世代共通の心理として断定するものではありません。
- 手を動かす:道具を準備し、動かして、結果を確かめる。その操作を自分で行ったことに楽しさがあるか。
- 待って知る:すぐには結果が分からず、後から仕上がりを見る時間を楽しめるか。
- 手元に残す:写真や紙、レコードなどを選んで保管し、見返せることがうれしいか。
- 一緒に触れる:同じ実物を囲み、選んだ理由や思い出を話せることに意味があるか。
同じ参加者でも、休日の体験では準備を楽しみ、急いでいる場面では手間を避けることがあります。「不便さが人気」と一括りにせず、楽しみになっている工程と、説明不足で困っている工程を分けて観察しましょう。
また、デジタルを使わないこと自体を目的にしない方が、本人の選び方を捉えやすくなります。実物で体験し、記録はスマホで共有したいという組み合わせも考えられます。どちらか一方に寄せる前に、持ち帰った後にどう楽しみたいかまで聞いておくと、必要な機能が具体化します。 SNSの負担や距離の取り方が背景にあるかを聞く際は、Z世代のSNS疲れ・通知・プライバシーの論点も確認し、アナログへの関心の理由を一つに決めつけないようにします。
写ルンです+の事例:フィルムの体験とスマホでの受け取りをつなぐ

富士フイルムは、2025年5月28日にスマートフォン専用アプリ「写ルンです+」の提供開始を発表しました。撮影済みの製品の現像をアプリから注文し、コンビニエンスストアから発送すると、現像した写真の画像データをアプリで受け取れる仕組みです。


現在の公式サービス紹介でも、フィルムごとの画像整理や、ムービー作成、プリントなどの楽しみ方を案内しています。また、2026年5月の公式発表では、現像まで仕上がりが分からないことや写真の質感を、写ルンですの魅力として説明しています。
この例から企画上の参考になるのは、撮影時の特徴を残しながら、その後の受け取りを日常で使う端末につないでいる点です。アナログな過程を全てそのまま再現する必要はなく、参加者にとって大切な体験を中心に設計できます。
企画に取り入れるなら、受け取りまでを一つの体験にする
たとえば地域のまち歩きでフィルム撮影を使う場合、撮影会だけでなく、後日写真を見返し「なぜその場所を選んだか」を語る時間まで計画できます。これは本稿の企画例で、富士フイルムの実施事例ではありません。 募集から当日の参加、終了後の接点を設計する方法は、Z世代向けイベント・コミュニティの企画と併せて確認できます。
参加者には、撮影から受け取りまでの見通し、現像やデータ化にかかる費用、仕上がりが事前に確認できないことを伝えます。操作に慣れていない人には最初に使い方を案内し、重要な記録は別の手段でも残します。待つ楽しさと、撮影に失敗して困ることを混同しないためです。
サウンドバーガーの事例:レコードを扱う楽しさと使いやすさを両立する

オーディオテクニカのレコードプレーヤー「サウンドバーガー AT-SB727」は、2023年5月31日に通常販売モデルとして発表されました。1980年代を意識した外観に、Bluetooth接続やUSB充電を組み合わせています。メーカーは、昔から知っている人と、初めてレコードに触れる人の両方を想定して紹介しています。

公式製品情報によると、本体から直接音が出る仕様ではなく、対応するスピーカーやヘッドホンなどへの接続が必要です。見た目だけを紹介するより、何をそろえれば聴けるかまで案内することが、初めて使う人の体験に関わります。
企画の視点では、レコードを選び、セットして聴く過程を保ちながら、接続の方法を現在の生活に合わせた例と読めます。ここでは若年層の購入比率や満足度は確認していないため、「Z世代に売れた成功例」とは位置付けていません。 体験の特徴と購入する条件を分けて検証する手順は、Z世代向け商品開発・購入の意思決定で整理しています。
初めて触れる人のための入口をつくる
レコードを扱う体験会を企画するなら、道具の使い方を知っていることを前提にせず、操作の説明と実際に触れる時間を設けます。詳しい人が一方的に正しい聴き方を教える構成より、参加者がどの曲やジャケットを選んだかを話せる問いを用意すると、本人の選択が企画に残ります。
その際に確かめたいのは、音の好みだけではありません。実物を選ぶこと、道具を動かすこと、同じ場所で一緒に聴くことのどれが印象に残ったのかを聞けば、次の企画で残す要素を判断できます。
レトロ・アナログの企画では、残す体験と減らす手間を決める

企画を始めるときは「若者にレトロが人気だから」から一歩進め、対象者がどんな場面で、どんな体験を選びたいのかを言葉にします。次の表は、商品開発や体験イベントに使うための検討例です。
| 確認する場面 | 聞く・観察すること | 企画に反映すること |
|---|---|---|
| 参加する前 | 知ったきっかけ、使用経験、期待 | 説明の量と最初の体験 |
| 使っている時 | 楽しんだ操作、迷った工程 | 残す操作と案内の改善 |
| 体験した後 | 残したいもの、再び選ぶ場面 | 持ち帰り方と次の接点 |
たとえば「手で選ぶことは楽しいが、受付の手続きは面倒」という反応なら、選ぶ工程を残して申込を簡単にする判断ができます。反対に「見た目は好きだが、自分で持ち続けるほどではない」なら、購入だけでなく、その場で試す体験として提供する案を検討できます。
試作の振り返りでは、写真を投稿したかに加えて、何を持ち帰ったか、また利用したい場面があるか、費用や準備時間を含めても選びたいかを確認します。少人数の反応を世代全体へ広げず、参加者の条件と評価した場面を記録して、次に確かめる問いを絞ります。 誘導を避けて体験を聞き、少人数の結果を扱う方法は、若者インタビュー・定性調査の設計を参照してください。
レトロやアナログを取り入れる価値は、古いものを置いたことだけでは決まりません。参加者が自分で選び、触れ、振り返れる時間をつくり、その体験を妨げる分かりにくさを減らすことが、商品や場づくりを具体化する出発点になります。


