「Z世代は承認欲求が強い」「失敗を恐れる」と説明されることがあります。しかし、SNSで反応を気にする、提案前に確認を重ねる、挑戦をためらうといった行動だけで、本人の自己肯定感や性格を判断することはできません。評価の基準が曖昧、損失が大きい、過去に否定された経験があるなど、場の条件も行動に影響します。
世代名を答えにせず、言葉の違い、公的調査が測っている範囲、本人が経験した具体的な場面を分けて考えることが出発点です。この記事では、2023年度の国際比較調査とOECDの15歳調査を手掛かりに、企業・自治体・教育現場で若者の声を聞き、参加や挑戦の条件を整える方法を紹介します。診断や治療の代替ではありません。
自己肯定感・承認欲求・失敗回避は、同じ「性格」ではない

自己肯定感は日常語として広く使われますが、調査によって「自分自身に満足している」「自分には長所があると感じる」「自分を好きだ」といった質問が異なります。自己効力感は、ある課題を実行できるという見通しに近い概念です。どちらも、単純に「高い/低い」という一語で人物像を決めるためのラベルではありません。
承認欲求も、SNSの「いいね」を求める行動だけを指す言葉ではありません。意見が受け止められたか確認したい、評価基準を知りたい、仲間との関係を保ちたいなど、似た行動の背景は複数あります。職場や企画会議で確認が多い人を、すぐに「承認欲求が強い」と評価すると、制度や説明の不足を見落とします。 SNSとの距離の取り方は、SNS疲れと依存を区別して考える記事で、生活への影響を含めて整理しています。
| 観察できること | 急いで結論にしないこと | 確かめる問い |
|---|---|---|
| 提案前に何度も確認する | 失敗を恐れる性格 | 基準・権限・損失は明確だったか |
| 反応や感想を気にする | 承認欲求が強い | 誰のどの反応を、何の判断に使うのか |
| 新しい役割を断る | 自己肯定感が低い | 時間、経験、支援、断りやすさはどうか |
言葉を分ける目的は、本人を分類することではありません。支援や企画の担当者が、変えられる条件を見つけるためです。例えば失敗の不安があっても、最初の役割を小さくし、相談先と評価基準を示せば参加しやすくなる場合があります。その有効性は本人に確かめます。
公的調査で分かるのは「傾向」であり、Z世代全体の性格ではない

こども家庭庁が2024年6月20日に公表した「我が国と諸外国のこどもと若者の意識に関する調査(令和5年度)」は、日本、米国、ドイツ、フランス、スウェーデンの13〜29歳を対象に、2023年11〜12月にウェブで実施されました。日本の有効回答は1,089人です。調査設計と詳細分析には有識者2人が関わっています。
同調査で「私は、自分自身に満足している」に「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた日本の若者は57.4%でした。2018年度調査の45.1%から12.3ポイント上がっています。これは質問時点の回答割合が変化したことを示しますが、その原因をSNS、教育、景気など一つに特定する調査ではありません。Z世代に固定された性格だとも言えません。
また、OECDのPISA 2018 Results(Volume III)は15歳の生徒を対象に、失敗したときに「他人がどう思うか心配する」など3項目で失敗への恐れを、5項目で一般的な自己効力感を扱いました。OECD平均では56%が、失敗時に他人からどう思われるか心配すると回答しました。ただし、これは15歳の生徒についての国際調査で、日本のZ世代全体の割合ではありません。
公的調査から読めるのは、定義された対象と質問に対する集計です。世代全体の内面を説明するには限界があります。年代差を見るときも、年齢による変化、調査時点の社会状況、出生年の違いを分離できるとは限りません。企画で使う場合は、対象年齢、回答時期、質問文、比較対象を併記しましょう。 原典を比較するときは、調査結果・統計・論文の資料集から対象条件を確認できます。
「承認を求める」「失敗を避ける」に見える行動は、場面を分けて聞く

インタビューでは「失敗を恐れますか」と一般論を聞くより、「最近、提案しようとして見送った場面を教えてください」と具体的な経験をたどります。何をしようとしたか、誰がいたか、どの時点で迷ったか、起きると思ったことは何かを聞くと、本人と環境の条件を分けやすくなります。
| 見えた行動 | 考えられる条件の例 | 追加で聞くこと |
|---|---|---|
| 提出前に何度も直した | 完成基準が曖昧/過去に細部を指摘された | どの状態なら出せると思ったか |
| 会議で発言しなかった | 準備時間がない/役割が不明/反対しにくい | 後から話せたことは何か |
| 新企画への参加を断った | 時間不足/責任範囲が広い/関心が別にある | 何が変われば検討できるか |
質問は原因を誘導しないようにします。「若者は周囲の目を気にしますよね」と前置きすると、答えがその枠に寄りやすくなります。「そのとき何を考えましたか」「別の選択肢はありましたか」と開いた問いにし、答えたくない項目は飛ばせると伝えます。
一人の語りをZ世代全体へ一般化しないことも重要です。共通点を探す場合は、似た立場だけでなく、参加した人としなかった人、経験のある人と初めての人など条件の異なる声を集めます。相違点も結果として残します。 募集する人の条件や質問の組み立ては、Z世代リサーチの調査設計へ進むと具体化できます。
実例:講義と対話を分け、若者が考えを出せる時間をつくる

リジェネレーションとNECが2024年9〜10月に全国3か所で実施した「2030年の自分と未来社会」プログラムでは、NEC社員による実践者レクチャーと、未来を考えるワークショップを組み合わせました。参加者・メンターを含め約80人が参加したと実施報告に記録されています。

SMBCとの実践:前提を知り、少人数で考えを言葉にする

第2回Umekita Pot feat.SMBCは、2024年1月28日に大阪・うめきたで実施した、Z世代・U30を対象とする共創ワークショップです。SMBCなどの実践者からWeb3・NFTを学んだ後、普段の一日を手掛かりに2040年の暮らしを考え、グループで発表しました。リジェネレーションは企画・進行を担当しました。
本記事の論点との接点は、情報を受け取る段階と、自分の考えを出す段階を分けた構成です。講義だけで理解や参加意欲を判断せず、対話と発表の時間を設けた実例として参照できます。
これらは自己肯定感や失敗への恐れを測定した実験ではありません。そのため「ワークショップで自己肯定感が上がった」とは扱いません。実務上の参考になるのは、いきなり正解を競うのではなく、前提を共有し、少人数で考え、言葉にする段階をつくったことです。自社企画では、参加前後に本人がどう感じたかを別途確認します。
若者の価値観を聞く設計は、若者の価値観調査の設計や、若者との対話で大切なことも参考になります。既存の「やる気」に関する記事はZ世代のモチベーションを考えるで扱っています。
企画・職場では、小さく試せる条件とフィードバック基準をつくる

「もっと自信を持って」と伝えるだけでは、何を変えればよいか分かりません。担当者は、目的、完了の基準、決めてよい範囲、相談先を開始前に示します。初めての人には、全体を任せる前に短い役割を試せるようにし、参加を断ることや途中で相談することを不利益にしない運用を考えます。
| 段階 | 担当者が用意すること | 本人に確かめること |
|---|---|---|
| 開始前 | 目的、期限、基準、裁量、支援者 | どこが不明・不安か |
| 途中 | 短い確認、変更可能な範囲 | 何が進み、何で止まったか |
| 終了後 | 事実に基づくフィードバック、次の選択肢 | 続けたい点、変えたい条件 |
フィードバックは「若いのに慎重すぎる」と人格や世代を評価せず、「期限前に相談したため要件を調整できた」「次回は最初に確認項目を共有する」のように、観察できる事実と次の行動を分けます。褒める回数を増やすこと自体ではなく、何が期待され、どこまで試せるかが分かる状態をつくります。 日々の説明や対話へ落とし込む際は、Z世代とのコミュニケーションの考え方も合わせてご覧ください。
強い不安や落ち込みが続き、生活や仕事に支障がある場合は、記事や一般的な対話だけで解決しようとせず、組織の相談窓口や医療・心理の専門職につなぐことも必要です。本稿は世代マーケティングと参加設計の観点を扱い、個人の診断や治療方針を示すものではありません。
出典確認:2026年9月29日。本文中の図は内容を整理した説明図、アイキャッチは説明用イラストです。実際の現場写真とは区別しています。


