ここ最近、持続可能な社会の実現に向けて「環境教育」の重要性が叫ばれていますが、日本の教育現場ではさまざまな壁に直面しています。環境教育に取り組むなかで、「教員の負担が大きい」「座学中心で子どもたちの自分事になりにくい」といった悩みを抱える学校や自治体、企業の担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、日本の環境教育が抱える現状の課題や海外と比較した構造的な問題点を整理し、それを乗り越えるための具体的な解決策として「PBL(課題解決型学習)」や「産官学連携」の有用性を解説します。
また、一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)がサポートしたZ世代と取り組んだ環境教育の成功事例もご紹介していますので、次世代に向けた実践的なプログラム企画のヒントとしてぜひお役立てください。
右近宣人1999年生まれ 神戸大学 法学部卒業
学生時代、NPO法人en-courege 9期 本部メンバーとして、事業/組織づくりに携わり、メンバー3700名・会員8万名規模に拡大
2023年6月 大企業で新規事業に関わる中、 Z世代・若者と企業・自治体が繋がるプラットフォームを創るため、 一般社団法人Re-Generationを設立。大企業に勤める傍ら、起業も同時に行う「第3の働き方」を行う。
全国のZ世代/α世代を対象としたプログラムを企画・運営を行っている。
そもそも環境教育とは?

環境教育とは、私たちが暮らす地球の自然環境や、それを取り巻く社会、経済、文化との繋がりについて理解を深め、持続可能な社会を構築するための知識や価値観、行動力を育む教育のことを指します。
日本の法律(環境教育等促進法)においても、持続可能な社会の構築を目指し、家庭、学校、職場、地域などあらゆる場面で行われる学習と定義されています。
日本の環境教育は、時代とともにその対象や目的を広げてきました。1970年代に深刻化した公害問題を背景に始まった「公害教育」や、1980年代の子どもの自然離れに対応するための「自然体験教育」、そして1990年代以降の地球環境問題の顕在化に伴う「持続可能な開発のための教育(ESD)」という、主に3つの流れが背景にあります。
現在では、ごみのリサイクルや省エネルギーといった身近なテーマから、気候変動対策、生物多様性の保全、さらには地域の防災・減災やまちづくりに至るまで、幅広い分野が環境教育の対象となっています。
環境教育について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

海外より日本の環境教育が「遅れている」と言われる理由
環境問題への関心が高まる中、日本の環境教育は海外の先進国と比較して「遅れている」と指摘されることが少なくありません。この背景としては、日本と欧米諸国との、教育の仕組みそのものの違いが挙げられます。
諸外国、特にヨーロッパなどの一部の国々では、環境教育を独立したカリキュラムとして体系的に扱う枠組みが存在していたり、国レベルでの明確なガイドラインが早期から整備されていたりします。一方、日本の学校教育において「環境」という独立した教科は存在しません。日本では主に、理科や社会科、家庭科といった既存の教科の中で関連するテーマを扱うか、「総合的な学習の時間」を利用して教科横断的に指導するというアプローチがとられています。
この教科横断的なアプローチは、物事を多角的に捉えるという点では理にかなっていますが、同時に「どの学年で、何を、どこまで教えるのか」という一貫したカリキュラムが存在しないという弱点も抱えています。そのため、日本の環境教育は学校や担当する教員の裁量に委ねられる部分が大きく、学習内容の深さや質にばらつきが生じやすい構造になってしまっているのです。
日本の環境教育が抱える現状と3つの課題・問題点

環境教育を充実させる方針が掲げられている一方で、実際の教育現場や地域社会では様々な壁に直面しています。ここでは、教育現場や企業が直面している現状の「課題」や「問題点」を3つの視点から整理して見ていきます。
課題①:「教員の負担増」と専門知識・準備時間の不足
現在の学校教育において、環境教育の多くは「総合的な学習の時間」を中心に行われています。しかし、この時間の運用は教員にとって大きな負担となっているケースが多いです。なぜなら、総合的な学習の時間には固定された教科書が存在しないため、教員自身が地域の課題をリサーチし、学習計画を立て、教材をゼロから作成する必要があるためです。
環境問題は、自然科学的なメカニズム(理科)から、法規制や経済活動(社会科)、さらには人々の価値観や倫理観(道徳)まで、複数の分野が複雑に絡み合っています。多忙な日常業務を抱える教員が、これらすべてを網羅した専門的な知識を独自に習得し、最新のデータに基づいた質の高い授業を準備することは、とても高いハードルになってしまっているのです。
また、各学校において環境学習の単元づくりや他教科との連携を企画・構想できる「環境教育専任教員(コーディネーター)」の配置も十分に進んでいるとは言えません。その結果、日本の環境教育は教員の負担感ばかりが増大し、残念ながら表面的な調べ学習で終わってしまうケースが多く見受けられます。
課題②:「座学中心」で知識が定着・自分事化しにくい
日本における環境教育は、知識を詰め込むだけの座学中心の授業になりがちであるという問題もあります。環境教育の枠組みとして、以下3つのアプローチが古くから提唱されてきました。
- 環境の中での教育(in)
- 環境についての教育(about)
- 環境のための教育(for)
しかし、現状の教育の多くは知識を教える「about(環境について)」の段階に留まりがちです。
地球温暖化の深刻な被害や、生態系の破壊といったネガティブな事実だけを座学で大量に学ぶと、子どもたちは
「地球の未来はお先真っ暗だ……」
と悲観的になってしまうリスクがあります。解決策を見出すための行動(for)を伴わない学習は、子どもたちの学習意欲や生きる意欲をそいでしまうことにも繋がりかねません。
さらに最近では、子どもたちが放課後や休日に学校外で自然と直接触れ合う自然体験活動の機会自体が減少傾向にあります。実体験が乏しいまま教室の中で環境問題の重大さを説かれても、子どもたちはそれを「遠い世界の話」として捉えてしまい、自らの生活と結びついた「自分事」として引き受けることがどうしても難しくなりがちです。
課題③:学校内だけで完結してしまい「社会との繋がり」が希薄
環境問題の解決には、個人の心がけだけでなく、行政の施策、企業の技術開発、NPOの活動など、社会全体のシステムや多様な主体との関わりが必要不可欠です。しかし、実際の環境教育は「学校の教室の中だけ」で完結してしまうことが多く、実社会との繋がりを感じにくいという課題があります。
本来、環境教育は学校教育の枠を超え、博物館や科学館、公民館といった社会教育施設や、地域社会全体と連携しながら「生涯学習」の視点で展開されるべきものです。地域の企業が実際に取り組んでいる環境対策を見学したり、地元のNPOと一緒に地域の課題解決に取り組んだりする機会がなければ、学習内容は抽象的なままにとどまってしまいます。
現状のような社会と分断された環境教育では、子どもたちが「自分たちの行動が社会をどう変えられるのか」という手応えを得られず、社会に参画していく実践的な態度を育むことは難しいと考えられます。
課題を乗り越える!これからの環境教育に必要な視点

上記で挙げたような課題を解決し、日本で実りある環境教育を実現するためには、単に知識を「教え込む」のではなく、学習者自身が課題に向き合うアプローチへの転換が求められます。
ここからは、日本におけるこれからの環境教育に必要な視点について解説していきます。
「教えられる教育」から「自ら学ぶ環境学習」へのシフト
これからの環境教育に必要なのは、教員が正解を提示し、生徒がそれを暗記する「教えられる教育」からの抜け出すことです。
環境問題には、立場の違いによって見解が分かれるテーマも多く、常に一つの絶対的な正解が存在するわけではありません。だからこそ、生徒自身が現状の課題に気づき、情報を集め、自分なりの考えを構築していく「自ら学ぶ環境学習」へのシフトが大切です。
自ら学ぶプロセスを通じて、子どもたちは他者と協力して問題に対処する力や、変化の激しい社会を主体的に生き抜く力(生きる力)、そして多様な価値観を持つ人々と共に活力ある社会を創り上げる力(ともに生きる力)を身に付けていくことができます。
環境学習について詳しくは、以下の記事をご覧ください。

主体性と行動力を育む「PBL(課題解決型学習)」の導入
「自ら学ぶ環境学習」を具現化する手法として注目されているのが、PBL(Project-Based Learning:課題解決型学習)の導入です。PBLとは、生徒が自ら具体的な課題を見つけ、その解決に向けて仮説を立て、調査や実践を行い、最終的な解決策を社会に向けて提案・発信していく学習手法のことを指します。
例えば、地域の災害リスク、身近な川の汚染、地場産業と環境のバランスなど、地域の特性を踏まえたリアルな課題(ローカルな視点)に向き合うことで、子どもたちは「自分たちの知恵と行動で、社会は少しずつ良くしていける」という自己効力感を得ることができます。
PBLを通じた実践的な学びは、知識を定着させるだけでなく、社会を変えていこうとする確かな行動力を育むことにつながるのです。
【解決策】学校・自治体・企業が連携する「産官学連携(外部連携)」のすすめ

教員の負担を軽減しつつ、PBLのような実践的で質の高い環境教育を実現するための最も合理的な解決策のひとつが、「産官学連携(外部連携)」です。
「産官学連携(外部連携)」とは、学校や教員だけで全ての教育プロセスを抱え込むのではなく、企業、行政、大学、NPOなどの外部リソースを積極的に活用することを指します。
ここでは、環境教育・環境学習の分野で「産官学連携(外部連携)」を行うメリットや効果についてご紹介していきます。
外部機関(企業やNPO等)のプログラムを導入するメリット
産官学連携(外部の企業やNPOが提供する環境教育プログラムを導入すること)には、多くのメリットがあります。
第一に、教員の教材研究や授業準備にかかる時間を大幅に削減できる点です。専門機関が開発したノウハウやツールを活用することで、教員はカリキュラムの進行管理や生徒のメンタルサポートなど、本来の教育的な役割により集中できるようになります。
第二に、最新の知見と社会のリアルな息吹を教室に持ち込める点です。企業のCSR(企業の社会的責任)活動や、最先端の環境技術、NPOの実践的な現場の課題に直接触れることで、生徒たちは「社会の最前線で何が起きているのか」を肌で感じることができます。
多様な価値観を持つ外部の大人たちとの交流は、総合的な学習の時間における最大の魅力であり、環境教育・環境学習のリアリティを高める上で非常に有効です。
若者(Z世代)が伴走する「ナナメの関係」がもたらす高い教育効果
産官学連携(外部連携)の中でも特に高い教育効果をもたらすのが、大学生や若手社会人といった「Z世代」がメンターとして伴走するプログラムです。
学校の教員や保護者は、子どもたちを指導・評価する「タテの関係」になりがちです。一方で同級生は「ヨコの関係」です。これらとは異なる、少し年上の先輩としての「ナナメの関係」は、子どもたちの心を開きやすくする特長があります。
年齢が近く、価値観も共有しやすいZ世代の若者がファシリテーター(進行役・まとめ役)として授業やプログラムに参加することで、「年齢の近い先輩と一緒に、社会の最適解を本気で考える」というフラットな環境が整います。その結果、子どもたちは「先生に正解を答えさせられる」のではなく、自由な発想を口にしやすくなるのです。
そうした自由な発想が口にできる環境教育・環境学習の環境になってはじめて、子どもたちの自発的なモチベーションや主体性を引き出すことができます。
産官学連携で環境教育の課題を解決した成功事例
ここからは、実際に外部機関との産官学連携によって環境教育の課題を解決し、生徒たちの深い学びを実現した一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)の成功事例をご紹介していきます。
事例①:【自治体×Z世代】ひょうごZ世代里山里海環境リーダープログラム

兵庫県庁との連携により実施されたこの「ひょうごZ世代里山里海環境リーダープログラム」は、Z世代の若者たちが中心となり、地域の里山・里海の保全というリアルな課題に挑んだPBL型環境教育・環境学習の実践例です。参加者は実際のフィールドに足を運び、現地の課題を肌で感じながら解決策を模索しました。
このプログラムの特徴は、教室の中の座学だけでは得られない「現場の一次情報」に触れることで、環境問題が自分事化され、参加者の主体的な行動を引き出している点です。自治体が場所と機会を提供し、一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)の若者(Z世代)リソースを活用することで、現場の負担を抑えながら質の高い体験型学習を実現した好例と言えるでしょう。
「ひょうごZ世代里山里海環境リーダープログラム」の事例詳細は、以下の記事をご覧ください。

事例②:【産官学連携】Z世代と神戸三宮の未来をデザインするワークショップ

神戸市、神戸大学、そして研究機関(IGES)とZ世代の学生たちが協働したワークショップ「未来社会デザインとカーボンニュートラル」では、「カーボンニュートラル」という複雑な社会課題をテーマに据えました。このワークショップでは、学校の中だけで完結させるのではなく、行政の都市計画や大学の学術的知見、研究機関のデータを持ち寄ることで、現実の社会で実際に起きている「本当の問題」について議論することができました。
具体的には、神戸市の行政担当者や環境研究の専門家と同じテーブルにZ世代の学生たちが座り、カーボンニュートラルに向けた実際の都市計画やデータを広げて議論を行いました。ワークショップ参加者は行政の予算やルールの壁に直面しながら解決策を練ることで、教室の授業では見えにくい「現実の街づくりの難しさ」を直接体験しています。
その上で、「三宮の街で自分たちは具体的にどう行動するか」を提案としてまとめ上げるなど、学校の枠を飛び出して実社会の課題に直接介入した環境教育・環境学習の成功事例と言えるでしょう。
「未来社会デザインとカーボンニュートラル」の事例詳細は、以下の記事をご覧ください。

なお、以下の記事でも一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)が企画・運営をサポートした環境学習・環境教育の事例をご紹介していますので、ぜひご覧ください。

環境教育の課題解決・プログラム導入のご相談は一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)へ
日本の環境教育は、先生の仕事が増えすぎている、授業が教室内の座学ばかりで実践が少ない、学校と社会の繋がりがうすいといった課題・問題点を抱えています。こうした環境教育に関する問題を乗り越え、子どもたちが将来に希望を持って自ら行動できるようになるには、学校の枠を超えた新しい環境教育・環境学習の形が必要です。
一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)では、大学生や若手研究者が子どもたちに寄り添いながら、小中高生が実際の社会課題に取り組む体験型の学習プログラムを企画・運営しています。先生の負担を減らしつつ、子どもたちが自分で考えて動く力を育て、自治体や企業が抱えるリアルな課題と学校現場をつなぐ役割を担っています。
「総合的な学習の時間をどう進めればいいかわからない……」
「自社の環境活動を教育の場に活かしたい……」
「地域の課題解決に若者の力を借りたい……」
上記のようなお悩みのある教育機関、企業、自治体の担当者様がいらっしゃいましたら、ぜひ一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)までお気軽にご相談ください。皆さまの状況に合う最適な環境教育・環境学習のプログラムを、一般社団法人Re-Generation(リジェネレーション)と一緒に作り上げませんか?
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出典:環境教育等促進法 関連情報 | 総合環境政策 | 環境省
出典:環境教育、6割が意識や行動に変化…課題は「授業時間の確保」 | 教育業界ニュース「ReseEd(リシード)」

